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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)10号 決定

抗告人 亡乙山春夫遺言執行者 甲野太郎

右代理人弁護士 吉永多賀誠

相手方 乙山春子

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原審判を取消す。相手方の申立を棄却する。」との裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は、「乙山春夫は昭和五六年八月一三日自筆証書により丙川夏夫を認知すること、遺言者の財産を乙山春子(相手方)及び丙川夏夫に二分の一ずつ相続させること、甲野太郎を遺言執行者に指定することを内容とする遺言をした。乙山春夫は昭和五九年五月一八日死亡し、同年一〇月一六日東京家庭裁判所において遺言書の検認手続がされ、その直後甲野太郎は遺言執行者に就任した。相手方は東京家庭裁判所に対し昭和五九年一二月一日遺言執行者の職務執行停止、職務代行者選任の申立(本案 東京家庭裁判所昭和五九年(家)第一二一〇八号遺言執行者解任申立事件)をし、同裁判所は昭和六〇年一月四日、(1) 本案審判の確定に至るまで遺言執行者甲野太郎の職務の執行を停止する、(2) 上記期間中本籍東京都目黒区中町一丁目九六六番地住所同町一丁目二五番三三号弁護士江川満を遺言執行者の職務の代行者に選任する旨の決定をし、抗告人の代理人弁護士吉永多賀誠は昭和六〇年一月一〇日右審判書謄本の送達を受けた。しかし、抗告人には格別の解任事由はなく、原決定は法令の解釈適用を誤ったもので不相当であるからこれを取消し、相手方の申立を棄却する裁判を求める。」というにある。

二  当裁判所の判断

本件記録によれば、乙山春夫は、昭和五六年八月一三日自筆証書により、丙川夏夫を認知すること、乙山春夫の財産を乙山春子(相手方)及び丙川夏夫に二分の一ずつ相続させること、甲野太郎を遺言執行者に指定することを内容とする遺言をしたこと、乙山春夫は昭和五九年五月一八日死亡し、同年一〇月一六日東京家庭裁判所において遺言書の検認がされ、その直後に甲野太郎が右遺言につき遺言執行者に就任したこと、相手方は抗告人を被申立人として東京家庭裁判所に対し昭和五九年一二月一日遺言執行者の職務執行停止、職務代行者選任の申立(本案 東京家庭裁判所昭和五九年(家)第一二一〇八号遺言執行者解任申立事件)をし、同裁判所は昭和六〇年一月四日、(1) 本案審判の確定に至るまで遺言執行者甲野太郎の職務の執行を停止する、(2) 上記期間中弁護士江川満を遺言執行者の職務の代行者に選任する旨の審判(原審判)をしたことが認められる。

ところで家事審判法一五条の三の審判前の保全処分に対する不服申立については家事審判法一四条が適用され、最高裁判所の定めるところにより即時抗告のみが許されるところ、最高裁判所の定めた家事審判規則一五条の三第一、二項によれば、同規則一二六条一項、七四項一項による遺言執行者の解任の申立があった場合における職務代行者選任の保全処分については、その申立を却下する審判に対しても、その申立を認める審判に対しても即時抗告ができるものとされておらず、他にこれらの審判に対し即時抗告ができるものとしている最高裁判所の定めは見当らない。

そうすると、本件抗告は不適法であるからこれを却下することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 新海順次 佐藤榮一)

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